2026/07/05
キッドハウス 琉球ガラスギャラリー|国際通りで出会う現代の名工の作品
那覇・国際通りの土産物店「キッドハウス」7号店、その2階には「お土産」の一言では収まらないフロアがあります。琉球ガラスの専門ギャラリーです。厚生労働大臣表彰「現代の名工」に選ばれた作家の作品が、複数まとめて展示・販売されています。中心にいるのは、泡の入ったガラスを「不良品」から「芸術」へと変えた名工・稲嶺盛吉さん。その物語と技法、今に続く継承の話、そして一緒に並ぶ他の名工たちの作品まで紹介します。
7号店2階「琉球稲嶺泡ガラスギャラリー」
国際通りには、ちんすこうやシーサーの置物、泡盛、Tシャツなどを扱う土産物店が数多く並んでいます。「キッドハウス」も、国際通りに複数の店舗を構える土産物店のひとつです。
7号店の2階には「琉球稲嶺泡ガラスギャラリー」というガラス専門コーナーがあります。2019年7月頃にオープンしたとみられ、当時のSNS投稿では職人による実演販売の様子も確認できます。
8号店は県庁前駅から徒歩圏、久茂地3丁目の赤い外観が目印です。食器類の品揃えに定評があり、陶器や琉球グラスが充実しています。
泡ガラスを生んだ、稲嶺盛吉さん
ギャラリーの中心にいるのが、稲嶺盛吉(いなみね・せいきち)さんという作家です。名前を知らなくても、「泡ガラス」という言葉なら耳にしたことがあるかもしれません。
15歳で始まった、廃瓶からの再生ガラス
稲嶺さんは1940年、那覇市寄宮の生まれです。15歳で奥原硝子製造所に入りました。当時は戦後の物不足の時代で、米兵が捨てたビールやコーラの廃瓶を溶かして再生ガラスを作る仕事が主流でした。家計を助けるための仕事だったといいます。それから60年以上、ガラスと向き合い続けました。
1988年、工房「虹」設立と「泡ガラス」の誕生
1988年、読谷村座喜味に自身の工房「虹」を設立します。そこで生まれたのが「泡ガラス」という表現です。ガラスに気泡が入ることは、本来「失敗」とされてきました。日本のガラス工芸の評価基準では、泡入りの作品は「B級品」扱いです。稲嶺さんの再生ガラス作品も、長らくそう見られてきました。
しかし稲嶺さんは、その泡にこそ「命の輝き」があると考えました。周囲の評価を撥ねのけ、「泡こそが命であり芸術だ」と証明するように作品を作り続けます。
「思いがけない発想」が生んだ、カレー泡
思いがけない考えで創作するのが稲嶺の真骨頂。中でも黄色の表現に使うカレー粉の場合、量と温度で色合いに変化があり、特に坩堝に残る最後の泡で作る表現は擦れが美しく人気の作品です。
「思いがけない素材」が生んだ、5つの技法
稲嶺さんの作品づくりは、常に「思いがけない素材」との出会いから始まっていたようです。
- 泡ガラス:全て泡で作品を作る、世界初とされる表現。泡が光を拡散し、柔らかく光る質感になる。
- 備長炭:窯から出すまで色味が読めない「雲流」という黒の表現。同じ素材でも仕上がりが変わる。
- カレー泡:カレー粉を使い、量と温度で色合いが変化する黄金色の泡を表現。
- 土紋:読谷の珊瑚土を1500℃のガラスに溶け込ませ、ひび割れ模様とざらつきを表現。素焼き陶器のような質感。
- アイスカット:琉球ガラスのヒビ入れ技法をより粗く、個性的にした技法。使い込むほど自分だけの表情に変わっていく。
1994年、厚生労働大臣より「現代の名工」に選出されました。沖縄のガラス吹き職人としては最初の受賞者です。ストックホルム平和展の平和貢献賞、琉球新報賞など、受賞歴は数多くあります。
継承の物語
2023年9月26日に逝去、享年83
稲嶺盛吉さんは、2023年9月26日にがんのため亡くなっています。読谷村座喜味の自宅で、家族葬にて見送られました。現在キッドハウスに並んでいる「稲嶺盛吉作」の値札がついた作品は、生前に作られたものです。
工房「虹」は現在、長男の稲嶺盛一郎さんが引き継いでいます。
盛一郎さんは16歳で奥原硝子製造所に入り、1995年から父のもとで「虹」の仕事に加わりました。2015年には自身の工房「絆」を与那原町に構えて独立しますが、2020年、父の「俺もついに80になるよ」というひと言をきっかけに「虹」に戻りました。「工房を継げ、とは一言も言われていないけど、父が生み出した泡ガラスの灯を消したくない」。盛一郎さんはそう語っていたといいます。
父が確立した「泡こそ命」という発想を、息子が自身の感性で受け継いでいます。現在は「seiichirouinamine.com」という公式ECサイトも開設されており、「琉球から世界へ 一子相伝の技と伝統」というコンセプトを掲げています。
稲嶺さんだけではない、名工たちの作品
このギャラリーは、稲嶺盛吉さんひとりの展示室ではありません。同じフロアには、沖縄を代表するほかの名工たちの作品も並んでいます。
池宮城善郎さんは、うるま市出身、琉球ガラス煌工房の代表です。2014年に「現代の名工」を受賞し、沖縄のガラス吹き職人としては稲嶺さんに次いで2人目の受賞者です。伊是名島の海をイメージした「青い光の滝」が代表作として紹介されています。
松田英吉さんは、琉球ガラス匠工房の代表で、2025年度(令和7年度)に「現代の名工」に選出されたばかりです。オリオン座をテーマにした「道星」という作品を店内で発表しているほか、青緑のグラデーションが特徴の「海の洞窟」シリーズも手がけています。
つまりこの2階は、「稲嶺盛吉個人のギャラリー」ではなく、沖縄を代表する現代の名工たちの仕事が一堂に会する場所といえます。
価格帯と購入時のポイント
ギャラリーの商品はグラス・タンブラー・鉢・酒器など幅広く、価格帯はおおむね3,000円台から2万円台です。
| 作家 | 代表的な商品 | 価格帯(税込) |
|---|---|---|
| 稲嶺盛吉 | アイスカットグラス | 6,600円 |
| 池宮城善郎 | 煌ブルーフォールロック | 5,390円 |
| 松田英吉 | 海の洞窟シリーズ | 4,730円〜6,600円 |
※価格はオンラインストア掲載時点(2026年7月確認)のものです。店頭の値札と多少前後する場合があります。
琉球ガラスは耐熱・強化ガラスではないため、熱湯を注いだり食洗機・電子レンジで使用したりすることは避けてください。これは琉球ガラス全般に共通する注意点です。作家ものの一点物は数に限りがあります。同じ技法でも、二つとして同じ表情のものはありません。
オンラインストアのラインナップ
以下は2026年7月時点でオンラインストアに掲載されている商品です。在庫状況は変動するため、購入前に商品ページでご確認ください。
稲嶺カレー泡石型グラス
- 高さ約9cm・口径約9cm
- ¥7,150(税込)
稲嶺盛吉さんの代表的な技法「カレー泡」のグラス。カレー粉で色を出し、天然の琉球石灰岩を型に使うことで、一つひとつ異なる凹凸が表れます。稲嶺さんの作品は現存するもののみで、なくなれば二度と手に入りません。
稲嶺アイスカット石型宙吹きグラス
- 高さ約9cm・口径約9cm
- ¥6,600(税込)
熱したガラスを水で急冷し、再び熱を加えて仕上げる「アイスカット技法」。太陽を受けて揺らめく海面のような、繊細な質感が特徴です。
稲嶺白泡石型 慶良間「藍」
- 高さ約9cm・口径約9cm
- ¥7,150(税込)
飛行機から見える慶良間諸島の白い砂浜と海を表現した一品。ガラスを無理に整えず流れるままに任せるという、稲嶺さんならではの発想が込められています。
煌ブルーフォールロックグラス
- 高さ約9cm・口径約8cm
- ¥5,390(税込)
池宮城善郎さんの作品。伊是名島の神秘的なダイビングスポット「青の滝」をイメージし、ダイバーのブローを泡で表現しています。
まとめ|「不良品」から名工の代表作へ
稲嶺盛吉さんが確立した「泡ガラス」は、失敗の証とされてきた気泡を、命の輝きへと変えた発想から生まれました。稲嶺さん自身は2023年に他界していますが、その志は長男・盛一郎さんの工房「虹」に受け継がれ、キッドハウスのギャラリーには池宮城善郎さん、松田英吉さんら同じ栄誉を受けた作家たちの作品も並んでいます。国際通りを歩く途中で立ち寄れる、沖縄の現代工芸の縮図ともいえる場所です。
基本情報
キッドハウス(7号店・琉球稲嶺泡ガラスギャラリー)
- 住所
- 沖縄県那覇市久茂地3丁目29-1 キッドハウスビル(※号店によって表記に揺れがあり、現地で要確認)
- 電話
- 098-861-3445
- ギャラリー
- 2階/2019年7月頃オープン
- 参考
- 8号店は久茂地3丁目3-1-102、県庁前駅から徒歩圏
※営業時間・定休日・駐車場・支払い方法は現時点で一次情報が取れていないため、次の取材で確認予定です。

